若い頃の自分の失ってしまった時間を取り戻したいときに読みたい本 村上春樹・1983年のピンボール

■2011年4月2日(土) 江別はくもり

前作を読んでしまったので、続きも読みたくなってしまった。

1983年のピンポール 
1973年のピンボール (講談社文庫)

モラトリアムな大学生活を送っていた主人公と鼠が、それぞれ大人になりに安定した暮らしを営んでいるひとこまが描かれている。

しかし、主人公と鼠は顔合わせること、出会うことなく、物語はすすみ、終わる。そして、ピンボールを巡るひとつの冒険物語が唐突に始まり、ラストでは物語そのものが雨に吸い込まれていく様なシーンで終わる。

村上作品のその後の作品を彩る主役とも言える「直子」の登場や、時々の作品で思い深く語られる「井戸」がこの作品で初めて登場に、以降の作品を暗示するものでもある。


私も中学生時代はピンボールにハマった。当時のゲームセンターはまだ、「スペースインベーダ」の登場前で、ビデオゲームというと「ブロック崩し」などの至ってシンプルな物が多く、まだまだピンボールマシンにも根強い人気があった。

私も作中の主人公同様、随分プレイをした、友人と学校帰りには、遅くなるまでピンボールマシンを抱いていた物である。

そんな懐かしさが、物語への私の感情移入を助け、いつしか私自身が物語の主人公となってしまう。(笑


 

前作「風の歌を聴け」は真っ白なキャンバスに自由に自分が描きたい画を描くというような、のびやかさが随所に感じられるが、こちら「1983年のピンボール」はラフに描かれた下絵を清書するような技巧が感じら得る。やや堅苦しさがあるかわりに、ストーリーとしては非常にわかりやすい。

描かれている鼠の苦悩が、次作への密かな伏線になっているのは次作を読んで初めてわかることなのだが・・・

三部作の真ん中としても非常に面白く、単独で読んでも非常に面白いなかなか優れた作品だと思う。

若い頃の自分の失ってしまった時間を取り戻したいとき・・・そんなときに読むにはうってつけの本ではないかと思う。

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このページは、よしかわゆういちが2011年4月 2日 16:28に書いたブログ記事です。

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